Sunday, January 08, 2006

 最後の物たちの国で(book)


 社会システムが崩壊した国、あらゆる物が失われ、略奪や殺人すらも犯罪ではなくなった国。死はあたりまえの出来事であり、子供はもう生まれない。そこでは言葉も、感情も、記憶も存在までも失われていく。

 その国に兄を捜しにきた主人公のアンナの、故郷の自分をよく知る大切な人に向けてあてた語られる手記という形をとって、この物語は語られる。

 アンナは、生き残るために兄を探すという望みを捨て、感情を捨て、希望を捨てる。しかし、人との出会いを通して、希望を語ることを見つける。

 作者は、この話を「どこかの国の話」だという。訳者はこれを「現代の寓話」だと評する。けれどもとても寓話に思えない。ひょっとしたら隣の国、それとも自分の国の近い未来かもしれない。

 全編をとおして、救いようがないくらい暗いのだが、不思議と希望を感じる。

 希望を語ることを「幽霊の言語」だとし拒絶していたアンナが、死にゆく友が書き記した単語を見て失ったものの大きさに気付き、語ろうとするくだりが本当に好きだ。静かな余韻を残すラストもすごくいい。物語の力を感じる。

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