Tuesday, March 27, 2007

世界の眺望

 ぼくはあなたを感激させるために、 あなたの目を世界に開かせるために、 自分が飛び越えてきた死の危険を物語ったものだ。 あなたはおっしゃった、ぼくがいつになっても少しも変わらないと。 子供の頃から、ぼくはシャツによく穴を開けたものだと。 ああ!なんと不幸なことだろう! ちがいますよ、ちがいますよ、 ぼくが今度帰ってきたのは、庭の奥からではありませんよ、 僕は世界の果てから帰ってきたのですよ、 それでぼくは苦い孤独の匂いを、 熱の砂嵐の渦巻きを、 熱帯地方の目覚めるばかり美しい月影を、 身に染み込ませて帰ってきたんですよ! するとあなたはおっしゃるのだった、 とかく男の子というものは、 駆けずり回ったり、難儀をしたりすることで、 自分を強いと思っているものなのですよ、と、こう。 違いますよ、違いますよ、老嬢よ、 僕は裏庭よりももっと遠いところを見てきました! 裏庭の藪かげなんか、物の数ではないですよ! あんなものなんか、 あちらの砂漠や岩山や処女林や大沼に比べたら、物の数にも入りはしません。 あなた知っていますか、 人と人が出会うと、 いきなり鉄砲を向け合う土地がこの世にあると? あなた知っていますか、 凍りつくほど寒い晩、屋根もなければ、老嬢よ、 ベットもなければシーツもなしで 眠らなければならないような砂漠が存在するということだけでも…。 すると、あなたは叫んでこうおっしゃるのでした。
『まあ!野蛮人』
 教会の修道女の信念が動かしえないのと同じように、 ぼくにもこの老嬢の信念は動かしえなかった。 そしてぼくは彼女を盲にし唖にしているその貧しい運命を哀れんだものだった…。 それなのに、このサハラの一夜、星と砂との間に、裸で放り出されて、 僕は彼女の方が正しいのだとしみじみ思い知ったものだ。


サン・テグジュペリ「人間の土地」より

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