Wednesday, May 10, 2006

アリアドネの糸と魔法の剣

 アリアドネは、迷宮の女主人。ミノタウロスの迷宮の番人であり囚われ人だった。ミノタウロスへの生贄に選ばれた、テウセスを一目見るなり恋に落ちてしまった。

 「テウセス。私の鎖を断ち切って。あの怪物を殺して。私の母がポセイドンの贈った牡牛と交わって産まれたあの怪物を。一度に七人の人間を丸呑みにするあの怪物を」

 ミノタウロスの迷宮は深く、一度足を踏み入れると二度と出ることは適わない。暗闇の迷宮で、出口を求めて永遠にさまよい続け、力つきて膝をついたところで、ミノタウロスに頭から食われる運命だった。

 アリアドネは、テウセスに魔法の剣と玉糸を渡した。
 「あなたを待っていました。私をこの迷宮から助け出してくれるひと。これをあなたにお渡しします。この玉糸を、入り口の扉に結び付けるのです。糸を辿れば、あなたは入り口へ戻ってくることができるわ。」

 テウセスは、まっすぐ迷宮の奥へと進み、眠っているミノタウロスを見つけた。その寝息は、地獄を千の竜が暴れ回っているように恐ろしい。魔法の剣を抜き、首を狙って振り下ろす。ミノタウロスの首がバターを切るように離れた。残ったものは、人の胴体と、牛の首。その二つがさっきまで一つの生き物とは信じられない。テウセスはほんの一瞬、人間の頭と牛の胴体を探した。勝利の証に、首を持ち帰ろうとミノタウロスの首を掴んだが、あまりにも重くて、そこへうっちゃったままにしておいた。この選択は正しかった。ミノタウロスの顔を見た者で、生きている者はいなかったから、気の荒い牛を仕留めたようにしか見られないところであった。

 そして、アリアドネの糸を辿って、迷宮を脱出したのだった。

 アリアドネは、一つ間違いを犯した。魔法の剣の使い方を説明するのを忘れていたのだ。魔法の剣は、アリアドネの鎖を断ち切るはずだった。しかし、一度血塗られ、再び鞘に納めると、それは二度とぬけることなく、魔力は失われてしまう。

 アリアドネは迷宮からでることはできず、勇者テウセスの妻となることもできず、ミノタウロスの声さえ聞こえない暗い迷宮で朽ちていったのだった。

1 Comments:

At 10:22 AM, Anonymous Anonymous said...

ギリシャ神話は読んでいて楽しいですね。口承に基づくものなので、話の筋も少しづつ違って来ているようです
。僕が知っているアリアドネはの話は、アリアドネはクレタ島ミノス王の娘、テーセウスは敵国アテネの王子、ミノタウルスはゼウスが牛に姿を変えてミノス王の妃に孕ませたもの、そういう設定だったかな。魔法の剣の話は出てこなく、アリアドネはテーセウスと駆け落ちをしたんじゃなかったかな。  
また、発掘の結果、クレタ島の大きな建造物の後から
子供の人骨が多数でてきたと言いますから、そういうところからこのお話は生まれたんでしょうね。
ちなもに阿刀田高の「ギリシャ神話を知っていますか」は面白く読めました。

 

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